前回(第3回)では、人材戦略の核心である「リソースアロケーション(資源配分)」のメカニズムを解説した。
経営戦略の実現に必要な「組織能力」を定義し、それを具体的な「役割」と「スキル」に翻訳する。そして、限られた予算と人員を成長領域へ集中投下し、同時に既存業務の縮小・撤退の痛みを経営として引き受ける。
さらに、採用(Buy)、育成(Build)、外部活用(Borrow/Partner)、自動化(Bot)、配置転換(Redeploy)という「6つの方向」を駆使して、緻密な供給戦略を組み立てる。
これらをエクセルシートやスライド資料の上に描き出したとき、経営陣と人事部門は「完璧な人材戦略が完成した」という達成感に包まれる。
事業部長間の政治的な陣取り合戦を乗り越え、ついに会社全体が同じ方向を向いて合理的に動き出す。誰もがそう信じて疑わない。
しかし、その「完璧で合理的な戦略」を現場にインストールしようとした瞬間、経営と人事は思いがけない、しかし致命的な反撃に遭うことになる。 配置の対象となる現場の社員たちが、その美しい計画通りには動いてくれないのだ。
資金や設備といった経営資源は、経営者が「あちらへ動かせ」と命じれば、翌日からその場所で100%の稼働を始める。
しかし、「人」という資源は違う。彼らは自らの意思を持ち、感情を抱き、これまでの仕事への誇りや、会社に対する不信感を内包している。
会社にとってどれほど「合理的」で投資対効果の高い人材配置計画であっても、現場の社員がそれに納得し、自ら動機づけられなければ、戦略は絵に描いた餅に終わる。
本連載の第4回では、一般的な経営戦略論をそのまま人事に応用することができない最大の理由、「個人の意思(個人合理性)」という変数に切り込む。
エンゲージメントやウェルビーイングを、単なる「社員に優しくする福利厚生施策」ではなく、「人材戦略を機能させるための不可欠な成立要件」として再定義するプロセスを解き明かしていく。

