前回(第2回)では、経営戦略の抽象的なスローガンを「組織能力(ケイパビリティ)」へ翻訳し、そこから具体的な「仕事(タスク)」「役割(Role)」「スキル」「要員需要(Capacity)」へと落とし込んでいく【翻訳プロセス】を解説した。
事業のバリューチェーンを解像度高く紐解くことで、「DX人材が100人欲しい」という現場の曖昧な要求は、「AI専門家30人、ソフトウェアエンジニア40人、デジタルソリューション営業50人、業務コンサルタント30人」という、地に足の着いた人材需要の全体像(To-Beモデル)へと変換された。
昨今、多くの企業が人事データ基盤やタレントマネジメントシステムを導入し、この「現状(As-Is)」と「未来(To-Be)」のギャップを定量的に可視化することに注力している。
しかし、エクセルシートの上に描かれた「未来に必要な人材の数とスキルの差分」がどれほど論理的で精緻であっても、それだけで戦略が自律的に動くことは決してない。
ギャップを可視化したポートフォリオは、現在地と目的地を示しただけの「地図」に過ぎないからだ。
必要人材のリストを手にした経営陣と人事部門が次に直面するのは、「限られた予算、時間、そして人材という資源を、社内のどこから引き剥がし、どこに集中投下するのか」という、極めて政治的で痛みを伴う意思決定である。
全員を等しく育て、すべての部署の要望に応えることは不可能だ。
何かを得るために、何かを諦める。資源の傾斜配分を行わない限り、人材戦略が実行フェーズで動くことはない。
本連載の第3回では、人材ポートフォリオを単なる「地図」から「意思決定のツール」へと昇華させ、限られた資源を最適配分する【リソースアロケーション(資源配分)】の理論と実践手法を解き明かしていく。
まずは、架空の製造業・東亜テクノロジーの会議室で繰り広げられる「陣取り合戦」の続きから見ていこう。

